セカンドポスト

雑記(フットボール/エンジニア/旅行/語学)

ボイコットで気づく、スポーツビジネスの怖さ

"ALLES FÜR DEN LASK, NICHT FÜR DIE FIRMA"

"全てはLASKのために、会社のためじゃない。"

これは 2023/5/14 LASK vs RedBull Salzburg で19分8秒間掲げられたバナーである。ドイツ語A2クラスに通う自分でも容易に理解できるフレーズ。そしてこの時間はファンはサポートをボイコットした。

 

少し日付を戻して 2023/5/5 LASKは新しいロゴと2023/2024シーズンのユニフォームを発表した。新しいロゴは昨今のフットボールシーンの流れを汲んだシンプルなデザイン。新しいユニフォームは伝統の黒白の縦縞にLinzが州都であるオーバーエスターライヒ州の紋章も入っている。

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しかし、LASKのウルトラスはサポートをボイコットした。

主な理由は以下(拙いドイツ語力で意訳してるので間違いあるかもしれません。)

  • ロゴの変更
  • スポンサーカラーのユニフォーム
  • 無意味な入場禁止、サポートの制限
  • 同じ目線でのコミュニケーションの不足
  • それらが改善される兆しがない

上記を持ってこれからも"同じサポートすることは不可能"だと。

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LASKは1908年から続く歴史あるクラブ。この数字に思い入れがあるみたいで、ウルトラスが何かアピールする時は大体19:08にバナーを掲げる。100年以上も続けば孫の代までLASKファンなんて家族はたくさんいるだろう。

 

自分はまだ4年くらいしかLASKを追ってない。だから歴史がどう、伝統がどう、ってのは字面や雰囲気からしか理解することができない。出禁の話やウルトラスとのコミュニケーションがどう行われてるクラブなのかはまだ少ししか知らない。

 

ただロゴやユニフォームの話は自分でも理解できたし、日本で観ているクラブでも同じようなことが起きている。それによってファンの分断、ファンとクラブの溝が深まってしまっている現状を自分なりに解釈したい。

 

ロゴの話

LASKはこれまでも数回ロゴを変更している。枠の色を変えたり、中身のフォントを変えたり。100年続けばよくある変更なんだと思う。今回は2つの大きな問題点があるようだ。

  1. クラブの3番手カラーである赤が抜けた。
  2. 古くからある旗のマークが抜けた。

ユニフォームの話にも繋がるが、赤が抜けたのは大きい気がする。歌詞の中でもschwarz weiß rot(黒白赤)と叫んでいる。過去、2ndや3rdには赤ベースのユニフォームを使ってきたらしい。自分が見始めた頃はすでに違った。問題になってるかわからないが、今回はフォントも統一されたようである。

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ユニフォームの話

新ユニフォームも大きなデザイン変更なくカラーリングも今季と同じ配色だった。ただ問題点はおそらく2つ。

  1. 3rdユニフォームのカラーがスポンサーのコーポレートカラー
  2. 1stユニフォームの袖がスポンサーのコーポレートカラーと大きなロゴのデザイン

特に問題なのが3rdユニフォームのカラーリング。上記で紹介したようにLASKは赤もクラブカラー。そのためユニフォームにも利用してきた。しかしここ数年はスポンサーであるBWTのコーポレートカラーであるピンクを採用している。ウルトラスはこれを不満に思っていて、過去にもピンクで戦った試合のサポートをボイコットしたことがある。今でもピンクで戦うことがわかるとSNSなどで抗議の声明を出している。

以下、LASKとスポンサー(主にピンクユニフォームのBWTと袖黄色のRaiffeisen Bank)に関する歴史が記されたページがある。(PVに何回スポンサー名が出てくるかまで数えてる。)Initiative Schwarz-Weiß - Die BWTisierung des LASK

ここ最近UEFAコンペティションにも出場しているLASK。しかし国際試合のホームゲームでは数回ピンクのユニフォームで戦っている。スパーズのようなビッククラブとの対戦でも黒白のユニフォームで戦えていない。なぜならスポンサーとの契約でピンクユニフォームで戦うことが条件になっているからである。

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そして本来なら袖部分まで黒白のストライプが伝統のユニフォームだと言う。袖が黄色になったことによって伝統は破壊されたと。最近発売された黒と白だけで構成されたレトロユニフォームは大人気となったらしい。確かにスタジアムでもたくさん見る。

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ファンがそれぞれ持つアイデンティティの違い

今回初めてサポートのボイコットを知った時はチャントを歌いたいのに、と思ったことは否定できない。それは自分がアイデンティティ、伝統を知らないからだろう。実際バナーが掲示された時、コールリーダーが協力に感謝を述べた時、スタンドからは拍手が起きていることから、多くのファンはそれに同意していると感じた。ただ100%全員がこの行動に同意しているわけではないと思う。画像のチラシの最下部には何か質問があれば来てくれ、と書いてある。

 

このような状況で多くの分断産んでしまっているのはアイデンティティや伝統はなかなか理解し難い、形にならないものだからだと思う。サッカー観戦が楽しい、応援が楽しいとスタジアムに来ている方はボイコットや文句言わずに楽しめばいいと思うだろう。ただその楽しい応援を作り上げたのはどんなアイデンティティの元だろうか。

自分の場合、日本では日常的にスタジアムに通うことで無意識にアイデンティティが刷り込まれている。ただ、ここリンツでそれをよく知らない側の立場を理解することができた。

 

 

自分の愛するクラブに置き換えて考える

Jリーグでもロゴ、エンブレムの"アップデート"がホットワードだ。そしてクラブは口を揃えて"伝統、アイデンティティを踏襲しながら"と言う。彼らの考える伝統はなんだろうか。

 

彼らはクラブカラーは変えないと言うだろう。

LASKだってメインは変わってない。ただクラブのスポンサーによって新しい色が追加され、大事な試合ではスポンサーカラーのユニフォームが優先される。

 

彼らはユニフォームの伝統は引き継ぐと言うだろう。

LASKだって縦縞は変わってない。ただ一部分にスポンサーカラーとデザインが追加され、1stユニフォームの目立つ部分はスポンサーカラーが表示されている。

 

想像してみてほしい。

クラブカラーは変えないと言っていた親会社が自分たちのユニフォームの一部にコーポレートカラーを入れることを。

 

チャンピオンズリーグや大一番でクラブカラー以外のユニフォームで戦うことを。

 

あなたのクラブでは絶対に同じことが起きないと言えますか?

同じことが起きる可能性があってもただ口を開けて待ってるだけでいられますか?

そして、同じことが起きてもあなたはクラブに同じ愛情を捧げますか?

 

親会社やスポンサーの意向によるアイデンティティの変更は例え最初は小さくても、数年後取り返しのつかないことになっているかもしれませんよ。

 

 

 

 

 

 

プロスポーツにおいて、スポンサーシップによるクラブ強化、ビジネス強化は避けられず、むしろサポートがなければ継続的な強化、成長は見込めないことを理解しています。ただし、スポンサーやビジネススタッフが半永久的にクラブに関わり続けることは現実的に不可能です。例えばスポンサーがつかなくなった、スタッフが最小人数になった、資金が尽きた、そんな時に残るのは誰でしょうか。

 

Lieber LASKler. Wenn ich habe ein Fehler schreiben, bitte teilt mir mit. Ich würde sofort korrigieren!